5月14日の地域包括支援センター向け研修会のレジメから

1 地域包括ケアシステムの方向性と地域包括・在宅介護支援センター役割

地域共生社会
国では 2016 年 7 月に「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部が立ちあげられ、「地域共生社会の実現」が目標として設定された。地域共生社会は、これまで分野・対象者別に 進められてきた縦割りの地域の支援の仕組みを見直し、地域住民を中心としたすべての関 係者が「我が事」として、生活課題に「丸ごと」対応できるような地域社会を、今後の日本社会が目指すべきイメージとして提示している。
国では地域共生社会の具体化に向け、「地域における住民主体の課題解決力強化・相談支 援体制の在り方に関する検討会(地域力強化検討会)」が立ち上げられ、分野を越えた支 援体制の構築や、協働の中核を担う「相談支援包括化推進員」の配置などが議論されてい る。

「地域共生社会」の実現に向けた包括的な支援体制の整備等について
「地域共生社会」の実現に向け、昨年の通常国会で成立した「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法 等の一部を改正する法律」(平成29年法律第52号)による改正社会福祉法に基づき、市町村における包括的な支援 体制の整備等を推進。(平成30年4月1日施行)
改正社会福祉法の円滑な施行に向け、昨年12月に、「市町村における包括的な支援体制の整備に関する指針」 (平成29年厚生労働省告示第355号)を策定・公表するとともに、関連通知(※)を発出。

 

(地域の暮らしにおける安心感と生きがいを生み出す)
地域は、生活に身近であるから、住民同士が、日々の変化に気づき、寄り添いなが ら支え合うことができる。また、地域に暮らす他者が抱える生活上の課題は、現在又は将来の自分や家族の課題となり、暮らしやすい地域をつくることは自分の利益になる。このことが、『我が事』として地域づくりに参加するきっかけとなる。
また、地域は、高齢者、障害者、子どもといった世代や背景が異なる人々が集い、 ともに参加できる場である。地域づくりを進めることにより、あらゆる住民が生活における楽しみや生きがいを見出す機会を提供することができる。これから増えていく退職高齢者にとっても、新たな活躍の場を得て生きがいを見つけることを後押しすることになる。働きながら地域づくりに参画しやすい環境をつくることにより、現役世代が就労と別の生きがいを見出し生活の豊かさを高める機会を増やすことができる。
さらに、多様な人々が「支え手」「受け手」という関係を超えて支え合うことを通して、多様性を尊重し包摂する地域文化を醸成していくことができる。そして、これ は、「制度の狭間」などの公的支援の課題を克服し、孤立を生まない地域社会を構築していくことにもつながっていく。
地域において、住民が世代や背景を超えてつながり、相互に支え合う取組を育んで いくことが、我が国に暮らす国民一人ひとりが、様々な困難を抱えた場合でも、社会から孤立せず、安心してその人らしい生活を送ることができる社会の実現に不可欠な のである。

(地域の持つ可能性を拓く)
地域はまた、社会・経済活動の基盤であり、多様な社会資源が存在している。昨今、多くの地域社会では、社会経済の担い手の減少を背景に、耕作放棄地の再生や森林など環境の保全、空き家の利活用、商店街の活性化など、様々な課題が顕在化し、存続 への危機感が生まれている。しかし、これらの課題は同時に、高齢者や障害者、生活困窮者などの就労・活躍の機会を提供する資源でもある。
地域において、社会保障などの分野を超えて、人と資源がつながることで、地域の様々な可能性を拓くことができる。そして、これにより、人々の多様なニーズに応えると同時に、資源の有効活用や活性化を実現することができる。
このように、地域に「循環」を生み出していくことにより、高齢化や人口減少とい った社会の変化を乗り越え、人々の暮らしと地域社会の双方を支えていくことができるのである。

(地域の課題に応える)
保健福祉分野における新しい理念や実践が現場の取組から生まれたように、地域では、既に、NPO や住民団体など多様な主体による地域づくりの実践が生まれている。
例えば、住民や地域の多様な主体が、認知症高齢者の方を見守り地域生活を支えている事例や、重度の障害を持つ方が地域で当たり前に生活する姿に接することが、多様性を尊重し包摂する、豊かな人間性や地域文化の醸成につながっている事例がある。また、将来にわたり持続可能なまちを創るという共通の理念の下に、地域産業や保健福祉などの関係者が分野を超えて参画し、地域資源を活かしながら、ともに地域づくりの取組を進めている事例がある。これらはいずれも、それぞれの地域の自発的な取 組として生まれてきた。
高齢化や人口減少などの状況や、抱える課題、そして存在する資源は、地域ごとに大きく異なる。地域の主体性に基づく取組によってはじめて、それぞれの地域の課題に応え、住民の暮らしと地域社会に豊かさをもたらすことができるのである。
(地域を基盤とした包括的支援体制を構築する)
地域づくりの取組は、地域における住民相互のつながりを再構築することで、生活に困難を抱える方へのあらゆる支援の土台をつくるためのものでもあるが、これにより、市町村や公的支援の役割が縮小するものではない。
福祉事業者には、地域社会の一員として、地域住民とともに、地域づくりに積極的に取り組む責務がある。市町村は、地域の自発性や主体性を損なわないように配慮し ながら、地域づくりの取組が持続するよう支援する役割がある。また、複合的な課題など、地域住民だけでは解決が困難な地域の課題については、市町村が、専門職や関 係機関の協働の下で解決を図る体制を整備することが必要である。
このように、地域を基盤として、住民、保健福祉の関係者、行政が一体となって取り組むことではじめて、人々の多様な課題に応える包括的支援体制を構築していくこ とができるのである。

改革の骨格
今後の改革の骨格はここに示すとおりである。改革は次の4つの柱に沿って進めるが、地域における『我が事』・『丸ごと』の取組は、これらが相互に重なり合ってはじめて持続・普及していくものであり、一体的に改革を進めていく。

地域課題の解決力の強化
地域丸ごとのつながりの強化
地域を基盤とする包括的支援の強化
専門人材の機能強化・最大活用

また、改革に当たっては、国や市町村などによる支援のあり方について、地域における『我が事』・『丸ごと』の主体的な実践が生まれやすい環境をつくり、これを促すものへと転換を図っていく。具体的には、法律への位置づけやモデル的な事業の実施などを通じて、現場の創意工夫ある取組や先進的な取組を促すとともに、多様な取組を蓄積し周知していく。さらに、運用上の取扱いを明確化し、現場の取組にとっての障壁を取り除くことを通じて支援を行っていく。

地域課題の解決力の強化
「自分や家族が暮らしたい地域を考える」という主体的・積極的な取組、「地域で困っている課題を解決したい」という気持ちでの活動、「一人の課題」について解決する経験の積み重ねによる地域づくりを支援する、『他人事』を『我が事』に変えていくような働きかけを通じて、住民が、主体的に地域課題を把握して解決を試みる体制を構築していく。
同時に、住民に身近な圏域において、地域包括支援センターなど各福祉制度に基づく相談機関や、社会福祉協議会、社会福祉法人や NPO 法人、住民を主体とする活動団体などが、相互に連携しながら、専門分野だけではなく、地域の住民が抱える課題について、分野を超え『丸ごと』の相談を受け止める場を設けていく。
本人に寄り添いながら生活全般に対する包括的な支援を行うという生活困窮者自立支援制度の理念を普遍化し、住民に身近な圏域で明らかになった課題、特に、多様・複合的な課題について、福祉分野だけでなく、保健・医療、権利擁護、 雇用・就労、産業、教育、住まいなどに関する多機関が連携し、市町村等の広域で解決を図る体制を確保する。住民に身近な圏域における『丸ごと』の相談体制と緊密に連携することにより、すべての住民を対象とする包括的相談支援体制を構築する。

地域丸ごとのつながりの強化
地域の活動への多様な主体の参画を促す観点から、福祉政策と雇用政策の両面から、地域の支え合い活動へ関わる人材の育成を促す。また、地域の民間資金の 活用を推進する。
社会保障の枠を超えて、まちづくりなどの分野における取組と連携し、人と人、人と資源が『丸ごと』つながり、地域に「循環」を生み出す取組を支援する。
地域を基盤とする包括的支援の強化
地域包括ケアの理念を普遍化し、高齢者のみならず、障害者や子どもなど生活 上の困難を抱える方が地域において自立した生活を送ることができるよう、地域住民による支え合いと公的支援が連動し、地域を『丸ごと』支える包括的な支援体制を構築し、切れ目のない支援を実現する。
人口減少など地域の実情に応じて、制度の『縦割り』を超えて柔軟に必要な支 援を確保することが容易になるよう、事業・報酬の体系を見直す。
精神疾患、がん、難病その他の慢性疾患など住民が抱える課題と深く関係することや、地域を基盤とする包括的支援における役割の重要性に鑑み、保健分野について、その支援体制を強化するとともに、福祉行政との連携を緊密化する。
専門人材の機能強化・最大活用
「地域共生社会」を実現していく上では、住民とともに地域をつくり、また、人々の多様なニーズを把握し、地域生活の中で本人に寄り添って支援をしていく人材が一層重要となる。
このような観点や、多様なキャリアパスの構築等を通じて人材の有効活用を図 る観点から、保健医療福祉の各資格を通じた基礎的な知識や素養を身につけた専 門人材を養成していくことが必要である。
このため、各資格の専門性の確保に配慮しつつ、養成課程のあり方を『縦割り』 から『丸ごと』へと見直していく。

当面の改革工程
改革の骨格に記載した方向性を踏まえて、まずは、本年の制度改正において、介 護保険法、障害者総合支援法、児童福祉法、社会福祉法を一体として、「地域共生社会」の実現に向けた『我が事』・『丸ごと』の取組を進めるための改正法案を提出する。 その上で、平成 30 年以降の制度改正と報酬改定において、全国的な体制整備を進めるための措置を講じる。並行して、専門人材の養成課程の見直しを進め、2020 年代初頭の『我が事』・『丸ごと』の全面展開に向け、改革を着実に実施していく。

地域課題の解決力の強化
社会福祉法を改正し、地域課題の解決力強化の取組を促進する。
【主な内容】
『我が事』・『丸ごと』の理念の明確化
市町村による包括的支援体制の整備 ・地域福祉計画の充実(福祉分野の共通事項を記載し、策定を努力義務とするなど) 等
モデル事業の実施を通じて、身近な圏域で、住民が主体的に地域課題を把握し解決を試みる体制づくりや、市町村において、分野横断的な相談支援体制の構築の取組を普及する。
今後 1 年(平成 30 年まで)の間に、地域課題の解決力強化の観点も踏まえ、生活困窮者自立支援制度等の見直しについて検討する。
今後 3 年(平成 32 年まで)を目処に、地域における体制整備の状況も踏まえつつ地域課題の解決力強化のための体制を全国的に整備・普及させるための支援方策について、制度のあり方を含め検討する。
今年度中に、介護保険制度の地域支援事業、障害者総合支援制度の地域生活支援事業、健康増進事業など、既存の地域づくりに資する事業について、権利擁護や虐待関係業務を含め、連携して一体的に事業を実施することが可能である旨を周知する。これらの事業の活用や「地方創生交付金」との連携により、地域に多様な集いの場を整備する。
福祉事業者が積極的に地域活動に貢献できるよう、今年度中に、福祉事業の実施に係る職員の基準について、一定の要件の下で、職員が地域づくり事業・活 動へ従事可能であることを明確化するなどの見直しを行う。併せて、こうした見直しを活用し、改正社会福祉法で位置付けられた社会福祉法人の地域における公益的な取組を促進する。
地域住民の支え合う力を育むとともに、民生委員、児童委員、市民後見人など地域生活を支える人材の活動の促進や育成を進める。
勤労世代が地域の活動に参加することができるよう、ボランティア休暇制度の普及促進、テレワークの普及促進などに取り組む。
地域丸ごとのつながりの強化
国土交通省との密接な連携のもと、生活困窮者、高齢者、障害者などへの居住支援を進める。
高齢者、障害者、がん・難病患者、生活困窮者など、様々な課題を抱える人が 地域での就労又は活動に参加しやすくなるよう、就労の場づくり等の支援体制を強化する。
退職高齢者について、多様なニーズに応じた活躍を促す観点から、先駆的な取組の支援・普及等を図ることにより、多様な雇用・就業機会の創出や支え合い活動の拠点など社会参加の場の創出を行う。
耕作放棄地の再生や森林など環境の保全、空き家の利活用、商店街の活性化など、地域社会・経済の抱える様々な課題について、社会保障の枠を超えて地域の資源とつながることで地域に「循環」を生み出す、先進的な実践を支援する。
【主な取組】
保健福祉・雇用分野の既存事業において、農福連携、空き家や空き店舗などの活用による就労。
社会参加や健康づくりを推進する。
地方創生の取組や、まちづくり等の分野と連携した取組が広がるよう、関係省庁との連携を図り、モデル的な実践を蓄積する。
民間主体が財政支援を通じて地域づくりに参画できる環境を整備するため、いわゆる「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」の手法について、モデル的な実践等を通じて検証し成果を普及する。
地域を基盤とする包括的支援の強化
医療・介護のニーズを持つ高齢者のみならず、障害者、子育て世代、ひとり親家庭、医療的ケアが必要な子ども、がんや難病などの慢性疾患をお持ちの方など生活上の困難を抱える方が地域において自立した生活を送ることができるよう、保健、医療、福祉、教育等にまたがり、また、地域住民による支え合いと連動した、包括的支援体制の構築に向けた取組を推進する。
本年の介護保険制度の見直しにおいて、介護保険に「共生型サービス」を創設 する。障害福祉制度の現行の基準該当の仕組みについても、報酬において障害支援区分を勘案していない等の課題に対応するため、障害福祉制度に「共生型 サービス」を創設する。これにより、介護保険又は障害福祉のいずれかの指定を受けた事業所がもう一方の制度における指定を受けやすくする見直しを行う。 また、平成 30 年の介護・障害報酬改定において、「共生型サービス」の創設に伴う基準・報酬についての必要な対応を行う。これらにより、地域の実情に応じた「共生型サービス」の整備を進めていく。
地域の実情に応じ、高齢者、障害者、子どもなどの複数分野の支援を総合的に提供する取組を支援するため、昨年 3 月に策定した、各制度に基づく人員配置 基準や設備基準などについて運用上対応可能な事項を整理したガイドラインの更なる周知を図る。
地域医療介護総合確保基金」について、現在助成対象となっている高齢者施 設において高齢者が障害者や子ども等と交流することにより高齢者が当該地域 において自立した日常生活を営むことができるよう支援する事業であると整理 できる場合については、障害者・子ども等も併せて利用する場合であっても助成対象となることを明確化する。
今後 3 年(平成 32 年まで)を目処として、保健・福祉行政における包括的支援のあり方について、制度上の位置づけを含め、幅広く検討を行う。
【主な検討事項】
地域保健の推進における市町村の機能の強化(福祉分野と連携した総合相談機能の整備、がんや難病を専門とする相談機能との連携、地域活動の支援・育成等)
市町村における福祉関係部局の横断的・包括的体制のあり方 ・市町村保健センター、保健所など、保健福祉分野の行政機能のあり方と役割分担(個別の対人支援機能、広域対応・後方支援機能 等)
専門人材の機能強化・最大活用
保健医療福祉の専門人材について、対人支援を行う専門資格を通じた新たな共 通基礎課程の創設を検討する。平成 29 年度に共通基礎課程の検討に着手し、各 専門課程の検討を経て、平成 33 年度を目処に新たな共通基礎課程の実施を目指 す。
共通基礎課程創設までの間の当面の措置として、今年度中に、福祉系国家資格を持つ者への保育士養成課程・試験科目の一部免除などの運用改善を検討する。