2 多元化する社会における「尊厳の保持」
2 – ⑴ 多元化する社会と社会的包摂
2040年は、一人ひとりが、実に多様な人生を過ごし、多様な住まいで、多様な家族のありようと住まい方を通じて、多様な課題を抱えながら生活している社会。
そうした多様な社会では、例えば「地域」という表現も、助け合い・支えあう場としてとらえる人もいれば、単に職場から帰って寝るだけの場所として理解する人もいるだろう。同じ地域に住んでいても、それぞれの住民にとっての「地域」の役割や期待、重要度が異なっており、私たちはそのような「多元的な社会」の中で生活しているといえる。
それぞれ異なる地域生活上の課題や問題を抱えた人々が、それでも一つの地域の中で排除される(社会的排除)ことなく多様な人々を包み込んでいく過程、それが、2040年の多元的な社会に向かっていく際の基本的なアプローチである。これを「社会的包摂」と呼ぶ。
社会的包摂は、一人ひとりの意思が尊重され、その地域・社会の中で排除されることなく、生活を継続できることとも言い換えられるだろう。「社会が個人の意思決定に可能な限り寄り添える社会」「あらゆる人々が“地域で共に生きる社会の実現”」=「地域共生社会」
尊厳保持は、地域包括ケアシステムの出発点
高齢者介護における「尊厳の保持」の重要性を提示している。報告書の中では、「尊厳」が保持される社会を、「自分の人生を自分で決め、また周囲からも個人として尊重される社会」と定義している。
本人の尊厳は守られて来た
要介護者がどこに住むのか、どのようなサービスを使って生活するかは、それぞれ本人の自由である。2040年に向けては、これまでみてきたように家族の姿は多様化しており、要介護者と同居する家族がいなかったり、同居者も必ずしも夫婦や親子といった本人に最も近い関係性の親族とは限らなくなっている。
生活者のエンパワーメントに向けて
意思決定とその支援は、家族機能が変化し、個人の尊厳が重視される2040年に向けた大きなテーマである。認知症の人への意思決定支援については、2018年6月に厚生労働省が提示した「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」が意思決定支援の基本原則を提示している。
2040年に向けては、住まいや医療行為も含めた本人の生活全体に関わる意思決定支援が不可欠になることから、「生活者へのエンパワーメント」の仕組みとしていくことが求められる。「本人の意思の尊重」とは、家族の要望や意思に配慮しないということではない。
2– ⑵ 参加協働による地域デザイン
地域の実情に合わせた一人ひとりに寄り添う地域デザイン
地域包括ケアシステムは「地域の実情にあった」仕組みを、その地域ごとで設計することが前提になっているという意味で、きわめて分権的な仕組み。したがって、それぞれの地域の実情に応じた地域包括ケアシステムを担うサービス提供体制を実現するには、行政・保険者やサービス提供事業者側が一方的に「利用者にとって、良いだろう」と思うサービスをデザインするのではなく、そのサービスの持つ価値やそのサービスを利用する意義を、住民・利用者と提供者が、支えられる側と支える側という関係性を越えて共に話し合い、改善を繰り返しながら、その地域の住民にあったサービスの使い方を考えていく過程が重要になる。今後は、「参加と協働」の過程が求められる。
行政・保険者がこうした地域デザインを地域関係者と協働で積極的に取り組んでいくためには、国が、参加と協働を支援する制度枠組み、例えば後述するような地域密着型サービスに対する独自施策や、介護予防・日常生活支援総合事業を、可能な限りシンプルで柔軟性の高いものに改善していく努力が欠かせない。
実はすでに組み込まれている「参加・協働による地域デザイン」の仕組み
平成27年度から始まった新しい地域支援事業にも、「参加と協働」を具体化するツールがすでに組み込まれている。生活支援体制整備事業における協議体は、住民の主体性を尊重した地域資源の開発を進める場として活用されている。また、在宅医療・介護連携推進事業においても、保険者と地域の専門による継続的な協議の場が設けられている他、地域ケア会議もまた、専門職のみならず、住民の参加によって地域をデザインしていく場としての機能が期待されているのである。
「参加と協働」とは、それぞれの地域における実情を踏まえ、そこに住む利用者やその家族などとのやり取りの中で、その地域の実情にあったサービスや、その提供体制をデザインしたり、調整したりすることと定義できる。
2– ⑶ 「参加と協働」のための「場づくり」と「コーディネーション機能」
参加と協働には学習の場が必要
「参加と協働」の実現には、地域住民や事業者、行政の学びの場が必要である。関係者間の相互理解を進めるためには、リーフレットや研修会といった普及啓発の活動だけではなく、定期的に両者が話し合ったり、自由に意見交換したりするような機会や「場」の設定が効果的。
場を動かすコーディネート機能
「参加と協働」を進めるためには、こうした「場」に関わる鍵となる人物や組織が欠かせない。利用者と提供者、事業者と行政などが、対等な立場で地域をデザインするには、地域関係者間をつなぐ「コーディネーション機能」を誰がどのように実現するかという課題がある。コーディネーション機能を持つ人や組織は、「場」において、参加者の意見を引き出し、議論を前向きに積み上げていくファシリテーターの役割が期待されている。「コーディネーター」という名称がつかない人(あるいは機関)であっても、地域の関係者の中で、目指す目標を共有し、「場」を使って、地域のデザインに関わる事業者や専門職、あるいは行政職が存在する。職名にこだわらず、地域の中でコーディネーション機能を果たす人物や組織を見つけ、支えていくことが重要である。
3 生活全体を支えるサービスと地域デザイン
地域での生活を継続するためには、「生活全体を支える地域の仕組み」として介護や医療だけでなく、住まい、生活支援等が、社会保険制度に限定されず、様々な資源の組み合わせで一体的に提供される必要。
2040年に向けては、これら「包括報酬型」在宅サービスの機能と役割をさらに拡充するとともに、これらのサービスを活用しながら、どのように利用者が地域とのつながりを継続させていくかといった視点が重要になる。
3 – ⑴ 包括報酬型サービスで支える
包括報酬型サービスのさらなる包括化
包括報酬の採用により、小規模多機能型居宅介護では、利用者の状態にあわせて、定期巡回・随時対応型訪問介護看護のような形態で訪問サービスを提供することも可能だ。つまり、既存の定期巡回・随時対応型訪問介護看護でも、小規模多機能型居宅介護でも、看護小規模多機能型居宅介護でも、「柔軟な対応ができ、多様な心身状態に対応できるサービス群」である点では、共通している。
むしろ、心身状態が変化する利用者への包括的・一体的なケアの提供のため、同一地域でサービスを提供するのであれば、これらの「包括報酬型」在宅サービスのメニュー間の垣根を取り払い、特定の事業者が多様なメニューを適宜使い分けながら地域を担当するといった方式も検討していくべき。
新たな複合型サービスの開発
2012年以降、新たな複合型サービスは報酬設定上、規定されていないが、今後、こうした組み合わせ提供が在宅生活を支える主力サービスになる以上、事業者の実践事例から学び、検討を重ね、報酬化を進めて、さらなる複合型サービスを開発していく必要がある。
3– ⑵ 「包括報酬型」サービスと地域社会の融合
生活支援と社会的な人のつながりをどのように組み込むか
特に在宅生活では、生活支援が不可欠である。今後2040年において、家族が傍らにいない状態で後期高齢者が在宅生活を送るとき、生活支援が在宅限界点の低下を防ぐ重要な要素のひとつとなるだろう。一人ひとりが社会のつながりから排除されない包摂的な社会を志向していくならば、「包括報酬型」在宅サービスも単に心身を支えるサービスだけでなく、社会的・文化的な生活を支えるための支援を組み合わせることこそ、生活全体を支えるという意味で重要になる。
地域の多様な資源をうまく組み合わせることで対応は可能である。この点で、「包括報酬型」サービスと、保険外サービスと組み合わせる混合介護によって在宅を支えるあり方も、今後広がっていくだろう。
単身世帯が増加し、家族の形が多様化していく中にあっては、保険外のサービスを専門職によるサービスとどのように組み合わせていくかという点は課題である。
地域との親和性が高い小規模多機能居宅介護
小規模多機能型居宅介護の最大の特徴の一つは、地域とのつながりの中で在宅生活を継続できることであろう。小規模多機能型居宅介護では、利用者が元気だったころの近所との付き合いや生活のリズム、あるいは居住空間も含め、利用者はありのままの情報を、いわば「地域や在宅から引き連れてサービス事業者にやってくる」と表現してもよい。つまり小規模多機能型居宅介護は、地域との継続性を保ちやすい特徴があるといえるだろう。
また、小規模多機能型居宅介護は、訪問単体のサービスとは異なり、「通い」という物理的な拠点施設を持つため、地域住民との交流に適したデザインともいえる。例えば、福岡県大牟田市内の小規模多機能型居宅介護事業所は、そのほとんどに併設された住民交流施設で、町内の会合などが開催され、自然に地域交流の拠点となっている。人口約11万5千人の市内に26か所の小規模多機能型居宅介護事業所が整備されており、中学校区よりも小さい圏域をそれぞれの事業所がカバーしている。こうした体制が発展していくことで、地域の社会的・文化的資源を生活の中に組み込んでいく可能性も広がっていく。
小規模多機能居宅介護を地域の拠点と考える
特に小規模多機能型居宅介護は、地域包括支援センターよりも小地域に計画的に整備されている場合もあり、地域づくりの拠点として機能するのであれば、現在の地域包括支援センターには難しいより小地域の地域社会と連続性を持つこともできる。
地域包括支援センターのブランチとして小規模多機能居宅介護の事業所が機能すれば、事業所職員は、介護サービスだけでなく、地域づくりや高齢者以外の地域課題に向き合う機会を得ることになり、人材育成の観点からも効果的なOJTが期待される。
3– ⑶ 事業者の参入を促進するための政策
安定的な経営を実現するために
「包括報酬型」在宅サービスの経営上の特徴は、一定の顧客数を恒常的に確保しなければ経営が安定しない点である。報酬の考え方についても、より安定的な経営を実現し、安定的なサービスの提供体制を維持するために、より柔軟な発想でこれらの仕組みを支えることを検討すべき。
「包括報酬型」在宅サービスが地域のインフラとしてサービス提供体制を維持しているコストをカバーするといった発想から、一定のサービス基盤を維持していることに対する包括報酬の支払い(ここでは仮に「地域包括報酬」と呼ぶ)を検討していくことも必要だろう。
「地域包括報酬」の考え方は、離島や中山間地の集落などにも適用できる。これらの地域においては在宅介護サービス事業所を複数整備することが現実的でない場合も多い。単に需要が少ないだけでなく、利用者像も刻々と変化するため、固定的な機能しか持たない介護サービスでは、ニーズに応じることは困難である。こうした地域では、行政が担ってきた地域の仕組みづくりや地域包括支援センターの一部の機能を持たせたような複合的で多機能な拠点を、現行の基準よりも、より地域の実情にあった形で緩和して整備することができるようモデルを検討していくべきであろう。
大都市部での事業者参入促進策を
中心市街地など土地の確保に制約がある地域においても効果的に事業を展開できるよう、設備基準の緩和や上述した多機能化による経営の安定策を積極的に検討していくべき。
一定の範囲で、都道府県または保険者の裁量が認められるべきである。特に中心市街地において、小規模多機能型居宅介護を中心として、各種の地域密着型サービス併設や多機能化といったタイプの地域拠点を実現できるようなモデルを模索すべき。
3– ⑷ 保険者による独自施策の可能性
中心市街地など土地の確保に制約がある地域においても効果的に事業を展開できるよう、設備基準の緩和や上述した多機能化による経営の安定策を積極的に検討していくべき。
一定の範囲で、都道府県または保険者の裁量が認められるべきである。特に中心市街地において、小規模多機能型居宅介護を中心として、各種の地域密着型サービス併設や多機能化といったタイプの地域拠点を実現できるようなモデルを模索すべき。
地域密着サービスを促進するための独自の施策は用意されている
地域密着型サービスの参入促進策としては、保険者とサービス提供事業者が、地域の実情に応じた仕組みをデザインするための独自施策が用意されている。独自施策は、サービスの整備や、供給量コントロールを行う上で、保険者の裁量で活用できる具体的な手法であり、保険者は地域の事業者と共に議論しながらこれらの独自施策を積極的に活用することで、それぞれの地域にあったサービスを構築していくべきである。
4 2040年に向けて再整備・再定義すべきもの
4– ⑴ 2040年に向けて増大する「生活支援ニーズ」
生活支援サービスの事業化
2040年は85歳以上の高齢者が1,000万人以上生活している社会であり、介護あるいは常時の生活支援を必要としていなくても、生活の中の困りごとを抱える人が地域の中に数多くいる社会。地域における多様な生活支援ニーズに応える体制の構築は、介護保険の範囲を越えた地域全体の課題と理解、軽度者を対象とした介護予防・日常生活支援総合事業で、生活支援や介護予防の一部を事業化し、それぞれの地域の実情にあった取組が可能になっている。
一方で、現在の制度枠組みでは、地域の多様な支援資源の活用は、基本チェックリストの対象者及び要支援1・2の対象者に限定されており、要介護1以上の対象者や、障害者、地域の一般住民にとっては、利用や参加がしにくい仕組みになっている。掃除や買い物、調理、通いの場などについては、一部の特別な対応を必要とする利用者以外は、要介護5までも含めて非専門職でも対応可能な共通のニーズが少なくない。生活支援の事業化が軽度者だけに限定されていることには、それぞれの地域でサービス提供を担う主体にとっては、市場規模や活動範囲が制限されているという点で、メリットが小さい。むしろ、多様な地域資源を活用した市町村事業に切り替え、地域の商工事業者等のビジネスチャンスや住民活動の場を広げていくことも必要であろう。
要介護者の場合は、身体介護を必要とする利用者が多く、身体介護と生活援助の一体的な提供が前提となる場合も多い。したがって、総合事業のように、すべての訪問介護を保険給付から市町村事業に転換するのではなく、専門職による生活支援を残しながら、より多様な選択肢を増やす方向で、市町村事業化を検討していく必要があるだろう。
4 – ⑵ 在宅ニーズがあっても在宅継続できる体制
在宅医療の担い手を増やすだけではなく、負担の分散も必要
急性期の対応としての入院機能は引き続き提供されることを前提に、慢性期の疾病管理を継続しながら在宅生活を継続するには、在宅医療の整備が不可欠。
むしろ、現在の在宅医療が抱える大きな負担を、いかにして医療職の間で分散させ、また一部の業務負担については、他の専門職種との連携が強化されることによって、結果的に軽減されるといった方策を検討すべきである。例えば、定期巡回・随時対応型訪問介護看護が日中帯に予防的な視点から利用者の状況を適切にモニターしていれば、夜間の急変を減らすことができるといった形での負担軽減を目指すべきである。
10万人程度の圏域で当番制による夜間体制を構築できれば、在宅医療の負担はより軽減されるだろう。すでに一般の診療においては、医師会が夜間・休日急病センターなどを運営しているが、在宅医療や訪問看護、あるいは訪問介護も含めて、夜間を地域で分担するようなモデルを早急に検討すべきであろう。
事業間連携の必要性
医療介護サービスの法人経営のあり方も、今後の地域資源の確保においては、重要。社会福祉法人や介護サービス事業所は、経営基盤の脆弱さから十分な採用活動もできず、人手不足から存続の危機が迫っている事業所も少なくない。
サービス間の業務提携については、定期巡回・随時対応型訪問介護看護における再委託などで実績がある以外は限定的であるが、組織間連携としては、法人の間接業務(経理や人事管理、物品調達)における法人間連携が実証的な取組として進められている。
人口減少が進む中にあって、事業者間の連携の推進は重要なテーマである。特に、夜間体制に代表されるような業務負担の大きい体制を単体の事業者で構築・維持することは、一部の先進事例を除けば現実的とはいえない。また、365日24時間の体制構築にあたっては、特に深夜帯には、需要が減少することを考慮すれば、地域のすべての事業者が深夜の提供体制を維持する必要もない。地域に必要となる需要を客観的に把握しつつ、診療報酬・介護報酬の設定も含め、事業者間の連携体制の構築を後押ししていくべきであろう。
4– ⑶ 住まいの多様化とサービスのあり方
施設の住まい化と多様性
介護保険の創設以来、「グループホーム」や「特定施設」、「地域密着型介護老人福祉施設」といった居住系サービスや施設の多様化に加え、外付けサービスの利用を前提とした「サービス付き高齢者向け住宅」や「住宅型有料老人ホーム」、あるいは「グループリビング」といった多様な住まいも増加する中、「施設」と「在宅」という分類は意味を失っている。
2040年には、こうした多様な選択肢の中で、一人ひとりのニーズにあった「住まいの多様化」と「住まいを支える仕組み」がいかに整合しているか、つまり、それぞれの住まいにおいて、人生の最終段階まで過ごせるのかといったことが議論の中心になる。
住まいの多様化に対応したデータ取得
多様な住まいでの在宅生活を適切に実現するには、保険者の視点からは、外付けの介護サービスの利用状況の把握が重要になる。サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームの場合、住まいの運営事業者と外付けサービス提供事業者が同一の法人という形態も多く、一般居宅とは明らかに異なるサービス提供(利用)が行われているケースも少なくない。今後、2040年に向けてこうした外付け型が一般化する中で、適切なサービス提供が行われているかを保険者が注意深くモニターすることが必要である。
現在の介護保険のレセプトデータは、一般居宅の居宅介護サービス利用者と、サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームの入居者(レセプト上は居宅介護サービス利用者)を区別することができない。今後、住まいの多様化によって、居宅介護サービスの利用パターン分析などは一層重要になることを見込み、レセプトデータや要介護認定データ上の住まい種別の特定が可能なよう、データ項目の仕様変更も検討すべき。
4– ⑷ 地域包括ケアに関わる専門職の育成
関係性を意識した働きかけができる人材を
包摂的な地域社会を構築し、生活全体をケアすることができる人材を確保していく方向の中では、単に専門的サービスを提供する従事者としてではなく、地域との関わりをもった専門職人材を育成していくことが不可欠である。また、IPW(Inter professional Work:多職種連携)やIPE(Inter professional Education:多職種連携教育)についても、単なる専門職間での連携にとどまらず、地域住民や家族、本人を交えた地域全体の中に、多職種連携を位置付けることが重要である。
また、障害や子ども、低所得の問題など、多様な課題が交錯する地域で専門職人材として活躍するには、縦割りの専門知識を脱し、現在の地域の実態にあった包括的な知識体系が必要である。地域共生社会の実現に向けて、「ニッポン一億総活躍プラン(平成28年6月2日閣議決定)」を契機に検討が本格化している保健医療福祉の専門資格における共通基礎課程の創設にあたっても、地域での生活全体を支える視点が重要。
医師における教育課程においても、より地域を意識した視点を取り込んでいくことが不可欠である。現在、総合診療専門医の育成が進められているが、患者を多角的に診るだけでなく、家族や生活背景、地域全体を見ながら、健康の社会的決定要因を理解して、地域の生活者を支える専門医として位置付けることが重要であると共に、医学教育の中で2040年の社会を前提とした医師の役割を学ぶ機会を提供していくべき。
介護人材は、数の問題だけでは議論できない
介護人材の不足も、大きな課題となっているが、単に職員数がそろえばよいということではない。介護職員の中にも、掃除や買い物、調理、話し相手などの家事援助中心型の人材、家事だけでなく介護も担える人材、重度の心身障害にも対応できる人材、そしてこうした人材をマネジメントしつつ、その他の専門職や、地域のインフォーマル資源と利用者との関係性をつなぐといったマネジメントの可能な人材
4– ⑸ 2040年のケアマネジメント
生活全体を支えるマネジメントへ
2040年に向けて、家族のニーズではなく、本人のニーズに合った生活の実現に向けて地域資源を結び付け、その活用を通じて、可能な限り本人の望む生活を支援していく個別性の高いケアマネジメントを実現していくことが求められる。
今後、ケアマネジメントは、介護保険以外の公的制度と連携していくことは当然として、地域の民間サービスや住民主体の活動など、地域で生活を継続していく中で必要とされる資源を適切に組み合わせる能力がこれまで以上に求められる。
ケアマネジメントの業務改善
給付管理に追われる現在の業務のありかたについても再整理し、地域社会に関わるソーシャルワーク機能に注力できる環境を整備することも重要である。特にケアマネジメントの業務のうち、定型化されているもの、情報通信技術等で軽減できる業務は徹底して効率化を進め、ソーシャルワークにかかる業務により集中すべきである。
地域包括ケアシステムが「生活全体を支える仕組み」に向かっていく中で、介護支援専門員の機能が変化しないのであれば、定期巡回・随時対応型訪問介護看護の計画作成責任者やサービス担当責任者、あるいは小規模多機能型居宅介護の介護支援専門員が現在のケアマネジメント機能の大半を担うことも考えられるだろう。