ウ 社会福祉法人の経営状態 電子開示システムによると、2018(平成 30)年度決算におけるサービス活動収益からサービス活動費用を引いた「サービス活動増減差額」をサービス活動収益で 除した「サービス活動増減差額率」は、平均値は 2.31%、中央値は 1.66%であり、 「0」未満の法人は全体の 38.4%となっている。

社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン(案)

 

1.はじめに

社会福祉法人は、戦後の混乱期から今日に至るまで長きにわたり、社会福祉事業の主た る担い手として、我が国の社会福祉を支えている。

近年、地域においては、生産年齢人口の減少をはじめとする本格的な人口減少社会の到 来、福祉ニーズの複雑化、多様化、地域社会の変化が進んでおり、社会福祉法人もこうし た変化に応じた対応が求められている。また、多発する自然災害や 2020(令和 2)年の新 型コロナウイルス感染症の発生時において、いかに福祉サービスを継続させていくかとい った課題にも直面しており、平時から法定の避難行動計画の策定や避難訓練の実施に加 え、事業継続計画の策定も含め万全の備えが求められている。

今般、公益性と非営利性の両面を備え、良質な福祉サービスを継続して提供していく使 命を持つ社会福祉法人が、こうした地域社会からのニーズに応え、その役割をさらに発揮 していくことを期待して、社会福祉法人の法人間連携、合併、事業譲渡等(以下「事業展 開」という。)の手続きと留意点等を整理した「社会福祉法人の事業展開に係るガイドラ イン」を策定した。

社会福祉法人の事業展開は、社会福祉法人の自主的な判断のもとに進められるべきもの であり、希望する社会福祉法人が事業展開を円滑に取り組めるよう、ガイドラインとして お示しするので、社会福祉法人経営に携わる方々は今後の事業展開の検討にあたって参考 にしていただきたい。

 

2.社会福祉法人を取り巻く現状と課題

(1) 社会福祉法人の現状 社会福祉法人の現状は次の通りである。

ア 社会福祉法人の数
2018(平成 30)年度福祉行政報告例(以下「福祉行政報告例」という。)による

と、社会福祉法人は全国で 20,912 であり、前年度から 74 法人増加している。ま た、2019(平成 31)年4月1日現在の現況報告書等に基づく社会福祉法人の財務 諸表等電子開示システム(以下「電子開示システム」という。)によると、法人種別 は一般法人が 18,395、社会福祉協議会が 1,906、社会福祉事業団が 199、共同募金会が 48、その他が 335 となっている。都道府県所在地別に見ると大阪府が最も多 く(1,198)、次いで福岡県(1,160)、東京都(1,073)となっている。指定都市別では、 大阪市(300)が最も多く、次いで横浜市(267)、京都市(260)と続いており、中核市 別では、鹿児島市(121)が最も多く、次いで金沢市(115)、長崎市(109)と続いてい る。

イ 社会福祉法人の規模
電子開示システムによると、2018(平成 30)年度決算におけるサービス活動収

益の規模別の法人の割合は、1 億~2 億円(26.7%)が最も多く、次いで、1 億未満 (14.8%)、2~3億円(13.2%)と続いている。平均は約 5 億円であり、10 億円以上 の法人は約 1 割(11.1%)、50 億円以上の法人は 0.6%にとどまっている。

(参考) 分野別の平均サービス活動収益
・高齢 約7.9億 ・障害 約5.1億 ・児童 約2.6億 ・その他 約11.6億

ウ 社会福祉法人の経営状態
電子開示システムによると、2018(平成 30)年度決算におけるサービス活動収益からサービス活動費用を引いた「サービス活動増減差額」をサービス活動収益で 除した「サービス活動増減差額率」は、平均値は 2.31%、中央値は 1.66%であり、 「0」未満の法人は全体の 38.4%となっている。

(参考)サービス活動増減差額率別法人数の割合
・0%未満 38.4% ・0%以上5%未満 32.6% ・5%以上 10%未満 18.0% ・10%以上 20%未満 9.6% ・20%以上 1.4%

エ 社会福祉法人の事業分野 電子開示システムを基に厚生労働省福祉基盤課による集計では、社会福祉法人の事業分野は、高齢分野単独が 21.0%、障害分野単独が 10.0%、児童分野単独が 43.4%、 複数分野が 25.1%、その他単独が 0.5%となっている。2018(平成 30)年度決算に おける収益規模が 5 億未満の場合は 88.7%の法人が単独分野を実施しているのに 対し、20 億以上の場合は、86.4%が複数分野を実施している。収益規模が 5 億未満 の社会福祉法人について児童福祉分野のみを行う法人の割合が多い。

オ 社会福祉法人の合併の状況
福祉行政報告例によると、合併認可件数は 12 件となっており、年間 10~20 件程度で推移している。 なお、令和元年度社会福祉推進事業「社会福祉法人の事業拡大等に関する調査研究事業」(みずほ情報総研株式会社)内で実施された合併、事業譲渡等を行ったこ とがない社会福祉法人経営者向けアンケートの合併、事業譲渡等の必要性についての設問において「必要性を感じている」、「今後は、必要性が出てくるのではないか と感じている」と回答した経営者は合計で 42.6%となっている。

 

(2) 社会福祉法人制度の変化 社会福祉法人は、戦後、社会福祉事業が公的責任により実施されることになると、民間の社会福祉事業の自主性の尊重と経営基盤の安定等の要請から、旧民法第 34 条 の公益法人の特別法人として 1951(昭和 26)年に制度化された。

社会福祉法人は、旧社会福祉事業法に基づく規制や監督を受けながら、主として国 からの措置事業を担う公共的な性格を有する法人として機能してきた。以来、長きにわたり、社会福祉法人は、社会福祉事業の主たる担い手として、我が国の社会福祉を支えてきた。

その後、2000(平成 12)年の介護保険法の施行、同年の社会福祉事業法の改正に よる社会福祉法の成立により、サービスの利用の仕組みを措置から契約に転換し、多 様な供給主体を参入させることにより、利用者の選択の幅を広げるとともに、事業者 の効率的な運営を促し、サービスの質の向上と量の拡大を図る政策がとられた。

2006(平成 18)年に公益法人制度改革が行われ、公益財団法人等には、その組織 等について法律で明確に規定されるとともに、透明性の確保についても高いレベルの 情報公開が義務付けられた。こうしたこと等を踏まえ、2016(平成 28)年には社会 福祉法人が備える公益性・非営利性に見合う経営組織や財務規律を実現し、国民に対 する説明責任を果たすとともに、地域社会に貢献するという社会福祉法人本来の役割 を果たしてくよう法人の在り方を見直す観点から、

・ 経営組織の見直し(評議員、理事、監事、会計監査人に資格、職務、責任、権 限の規定整備、評議員会の必置化、一定規模以上の法人への会計監査人必置化等)

・ 事業運営の透明性の向上(定款、計算書類等の公表義務化等)
・ 財務規律の強化(特別の利益供与の禁止規定整備、役員報酬基準の作成及び公

表の義務化、社会福祉充実計画の策定義務化等)
・ 福祉サービスを提供するにあたっての責務(地域における公益的な取組の責務化)
・ 行政の関与(所轄庁による改善勧告の規定整備、社会福祉法人に関するデータ

ーベースの整備、国民への情報提供の実施等) を内容とする社会福祉法の改正(以下「28 年改正法」という。)が行われた。

 

(3) 2040 年を見据えた社会福祉法人の課題 3

いわゆる団塊ジュニア世代が 65 歳以上となる 2040(令和 22)年を見据えた社会 福祉法人の課題は以下の通りである。

ア 増加が緩やかになる高齢者と減少が加速化する生産年齢人口

我が国の社会の人口動態を見ると、いわゆる団塊の世代が全員 75 歳以上となる 2025(令和7)年に向けて高齢者人口が急速に増加した後、その増加が緩やかにな る。また、大都市とその郊外では高齢者が増加する傾向にある一方で、地方では高 齢者が増加せず、減少に転じる地域もみられる。

さらに、担い手となる生産年齢人口の減少が 2025(令和7)年以降加速する。現 在でも福祉人材の有効求人倍率が高止まりしていることに加え、2018(平成 30) 年には労働時間規制の強化や同一労働同一賃金などを内容とする働き方改革関連 法が成立し、2019(平成 31)年4月から順次施行されており、働き方改革に適切 に対応しつつ、担い手確保を図る必要がある。

イ 福祉ニーズの複雑化、多様化と地域社会の変化 近年、ひきこもりやゴミ屋敷問題、親の介護と子育てを同時に担うダブルケア、高齢の親と働いていない独身の 50 代の子どもが同居している世帯といった複合的 な課題など、個人や世帯が抱える生きづらさやリスクが複雑化、多様化している。 また、血縁、地縁、社縁といった共同体の機能の脆弱化といった社会構造の変化が 進んでいる。

こうした中、福祉ニーズの複雑化、多様化、地域社会の変化に対応していくため、 従来の高齢者、障害者、子どもといった種別を超え、横断的、包括的な福祉サービ スの提供が求められている。社会福祉法人に対しては、「地域における公益的な取 組」が責務として位置づけられており、福祉分野を超えた他分野との連携として、 農福連携や住宅確保要配慮者への居住支援への取組などが期待されている。

 

3.社会福祉法人の事業展開と期待される効果

社会福祉法人は、旧民法第 34 条に基づく公益法人から発展した特別法人として、
1 社会福祉事業を行うことを目的とし(公益性)
2 法人設立時等の寄附者の持分はなく、剰余金の配当もなく、解散時の残余財産は社

会福祉法人その他学校法人、公益財団法人等の社会福祉事業を行う者又は国庫に帰属 し(非営利性)

3 所轄庁による設立認可により設立される という性格を有している。 社会福祉法人は、こうした性格を活かし、わが国の人口構造の変化や福祉ニーズの複雑化、多様化を見通して、これまで培ったノウハウを生かした福祉サービスの充実を図ると ともに、

・ 様々な社会生活上の困難を抱える者に対して、日常生活の支援を含む福祉サービス の提供

・ 過疎地等他の経営主体の参入が見込まれない地域で福祉サービスの提供 など、他の経営主体で担うことが必ずしも期待できない、制度や市場原理では満たされな いニーズに対して、住民に身近な圏域で福祉分野の専門性を持つ非営利セクターの中核と して、福祉サービスを積極的に提供することが期待されている。

社会福祉法人の事業展開は、公益性・非営利性を十分に発揮し、社会福祉法人に寄せら れている期待に応える非営利法人として、経営基盤を強化し良質かつ適切な福祉サービス の提供が実現しうる観点から行われるべきである。

(1) 事業展開の主な手法 社会福祉法人が行う主な事業展開として、以下のような手法が考えられる。このほか、2020(令和2)年6月に公布された社会福祉法等の一部改正法には、社会福祉法 人が、それぞれの強みを活かしながら、連携するための新たな方策として「社会福祉 連携推進法人制度」が盛り込まれている。

○ 法人間連携 法人間連携とは、それぞれの法人の強みを活かし、地域の課題などに連携して対応することや、人材確保や災害対応などを複数の法人間で協力関係を構築する ことである。連携の範囲や内容など明確な定義はなく、法人間で互いに協力関係 を築くこと全般が含まれるものと考えられる。

また、近年では、社会福祉協議会を通じた連携が行われ、地域づくりの一翼を 担っている。

○ 合併 社会福祉法人の合併は、社会福祉法に規定されており、社会福祉法人間のみで認められている。28 年改正法で吸収合併、新設合併の規定等が追加された。

・新設合併

合併により既設の法人の全てが解散し、新たに法人を新設すること。

・吸収合併

合併により 1 つの法人のみ存続し、他の法人を吸収(解散)すること。

合併後存続する法人が、消滅した法人の一切の権利義務を承継する。

○ 事業譲渡等

事業譲渡等とは、事業の譲渡と事業の譲受けを総称したものである。通常、特 定の事業を継続していくため、当該事業に関する組織的な財産を他の法人に譲 渡・譲受けすることであり、土地・建物など単なる物質的な財産だけではなく、 事業に必要な有形的・無形的な財産のすべての譲渡・譲受けを指している。

 

(2) 社会福祉法人の事業展開により期待される効果

ア 事業展開全体で期待される効果

(ア) 新たな福祉サービスや複雑化、多様化に対応した取組の展開 個々の法人では資源の不足等により新たに取り組むことが難しい場合であっ

ても、複数の法人が連携、協力し資源を補いあうことで取組が可能となる。 (例)

・様々な地域生活課題に対する総合相談支援体制の強化 ・新たな支援・サービスの創出 ・緊急・窮迫した状況への迅速な現物給付の実施 ・全世代型の居場所づくり、見守りの展開

(イ) 一法人では対応が難しい課題への対応 個々の法人のみでは対応しにくい課題への取組などが期待される。

(例) ・外国人材の確保など人材確保の促進 ・研修の共同実施 ・災害時への備え、体制の構築

イ 法人間連携で期待される効果 法人間連携であれば、合併、事業譲渡等の手続きと比較し容易に取り組むことができ、意思決定から短期間で柔軟に実行に移しやすい。 ウ 合併で期待される効果

(ア) 法人が一体となることによる経営基盤の強化、事業効率化
・ 法人が一体となり、本部機能や財務基盤が強化されることにより、事業の安 定性と継続性が高まり、建物の修繕や設備の増強など、サービスの質の向上に向けて積極的に設備投資を行うことが可能となることが考えられる。
・ スケールメリットを活かすことによって、資材調達などのコストを削減することが可能となることなども考えられる。 (イ) サービスの質の向上、組織活性化

・ 相手方の法人の人材、ノウハウ、設備等資源を活用することにより、既存の 資源の補完や高度な活用が促され、サービスの質の向上などが期待される。

・ これまでにない新たな種別の施設を取り入れた場合には、提供するサービス の幅が広がることが期待される。

・ 互いの法人が有機的に結合し、職員間の意識が刺激されるなど新たな法人風 土を醸成することが期待される。

(ウ) 人材育成
・ 新たな領域の知識・技能・経験を持った職員を確保することができ、職員間の人事交流が促進されれば、各職員のスキル拡大・向上を図ることができることが期待される。
・ 規模拡大によって教育への投資が促され、外部講師の招へいや外部研修への参加機会の確保など、充実した教育を受けることが期待される。

エ 事業譲渡等事業譲渡等の効果として、合併において挙げられている効果に加え、以下の項目 が考えられる。

(ア) 事業継続が困難な社会福祉事業の継続

事業継続が困難になっている社会福祉事業について、事業譲渡等により、事 業継続の可能性が広がることが期待される。

(イ) 事業拡大、拡充の負担軽減 他法人から事業を譲受けることにより、即戦力の資源を活用することができ、新設、増設する場合よりも、迅速な事業展開や、事業化までの負担の軽 減、事業の拡大、拡充が期待される。

 

4.合併・事業譲渡等の手続と留意点

事業展開の手法のうち、合併と事業譲渡等については、社会福祉法等に定められた手続 を行う必要がある。また、持分や配当がなく、残余財産は他の社会福祉法人又はその他学 校法人、公益財団法人等の社会福祉事業を行う者に帰属し、処分されない財産は国庫に帰 属すると定められている社会福祉法人自体の性格に即して行われるべき処理もある。

理事・評議員等は社会福祉法人と委任の関係(社会福祉法第 38 条)にあり、委任の本 旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う(民法第 644 条) とともに、社会福祉法人に損害を与えた場合には賠償責任を負う(社会福祉法第 45 条の 20)こととなる。このため、合併、事業譲渡等に関しては、その後の法人運営に大きく影 響する点を踏まえ、十分な時間をかけて検討を行う必要がある。

こうしたことから、合併、事業譲渡等に限定して、主な手続と留意すべき事項等を整理 した。なお、各手続きや留意事項等については主なもののみを記載しているため、これ以外については社会福祉法その他関係法令等に基づき適切に対応されたい。また、令和元年 度社会福祉推進事業「社会福祉法人の事業拡大等に関する調査研究事業」(みずほ情報総 研株式会社)において、実務担当者向けの手引き書(マニュアル)が策定されているので 参考にしていただきたい。

(1) 合併、事業譲渡等に共通する事項 ア 法人所轄庁への事前相談

合併、事業譲渡等とも関係する社会福祉法人の所轄庁(以下「法人所轄庁」とい う。)が関わる手続等が多くあることから、法人所轄庁にできるだけ早期に事前相 談に行くことが望ましい。

イ 各事業に係る行政庁への事前相談 合併、事業譲渡等を行うことで、対象となる社会福祉事業等はその経営主体が変

更されることとなる。多くの社会福祉事業等は、当該事業を所管する行政庁(以下 「事業所管行政庁」という。)からの許認可等を受けており、経営主体変更に伴う 各種手続きが生じることから、法人所轄庁の相談と並行して、事業所管行政庁にで きるだけ早期に事前相談に行くことが望ましい。

ウ 利用者に対する十分な説明と理解の促進 事業に関係する利用者の不安の除去と納得性が必須であるので、丁寧かつ十分な説明が必要である。
エ 職員に対する十分な説明と理解の促進

事業に関係する職員に対して、労働条件も含めて理解を得ることが労働法遵守の 観点からも必須であり、また、職員の定着という観点からも重要である。

オ 税制、補助金の取扱
租税特別措置法第 40 条の規定の適用を受けた寄附財産や国庫補助金を受けている財産の取扱については税務署、補助金関係行政庁と十分相談して、適切に対応す る必要がある。

<適切と考えられる実例> 法人内部で事業譲渡の検討を進めていくなか、構想段階ではあったが、実現可能性も含めて法人所轄庁に相談した。法人所轄庁も前向きに捉えてくれ、その都度相談にのってく れ、例えば必要書類の種類、年度内に事業譲渡が完了するよう必要書類の提出期限、理事 会の開催時期などのアドバイスがもらえた。

<適切と考えられる実例> 譲渡しを行う事業に従事していた職員に対しては、説明会に加え個別面談を数回行い不安の払拭に努めた。また、事業を譲渡し後も人事担当者が定期的に訪問し相談等に応じ、 事業譲渡1年経過後に改めて意向確認を行い、希望する職員には元の社会福祉法人に戻る ことを認めた。

 

(2) 合併
ア 主な手続

合併については、28 年改正法において、公益法人制度に準じて吸収合併、新設合 併のそれぞれの手続きが明確化された。

社会福祉法上は、 1理事会、評議員会における合併契約の決議 2合併契約に関する書類の備置き及び閲覧等 3合併の法人所轄庁の認可 4債権者保護手続きにおける官報による公告 5登記手続 6事後開示、書面等の備置き・閲覧等が必須の手続である。

イ 留意すべき事項

(ア) 当事者法人の協議、合意形成 合併では、合併によって期待できる効果や双方の経営・資産等に係る情報など、当事者間の適切な合意形成に向け十分な協議を行い、当事者間の適切な合 意形成が前提であることは言うまでもない。

(イ) 消滅法人の退職役員に対する報酬の適正性の確保 合併により消滅する法人において、退職役員等に仮に退職手当及びそれに類

するものが支払われる場合には、社会福祉法第 45 条の 35 に基づき規定された基準によるものでなければならない。

(ウ) 租税の取扱

合併により、租税特別措置法第 40 条の規定の適用を受けた寄附財産を存続法 人又は新設法人に移転する場合であって、引き続き同条の適用を受けようとす る場合には、合併の日の前日までに、国税庁長官あてに必要な書類を提出する 必要があるため、所轄の税務署に事前相談を行うことが望ましい。

<適切と考えられる実例>
相手方からの申し入れにより吸収合併を行ったケースである。 まず事前に理事会で合併の事前協議に入ることについて了解を得た。事前協議の中では

特に給与や手当など職員処遇についての差をどう埋めていくかが大きな課題であったが、 理事長、管理職も含めた会議を6回程度行ったことで、まとめることができた。また、合 併直前には両法人職員合同の研修会を開催し、両法人の相互理解を深めた。

このような事前の調整により、結果としてトラブルなく合併が行えた。

(3) 事業譲渡等 ア 主な手続

事業の譲受け及び事業の譲渡を行うにあたっては、
・ 事業を譲受ける法人では、譲受ける事業について新規の許認可等の手続き
・ 事業を譲渡す法人においても、事業廃止などの各種手続き、及び当該事業に供

する基本財産を変更する定款変更申請が必要となる場合、その処分方法を記載し た書類が必要となるほか、不動産の価格評価書なども法人所轄庁の求めに応じて 提出等が必要となる。 また、合併と異なり、包括承継はされないことから、移転される利用者、職員、調理、清掃などの委託業務等、土地、建物など事業に関連するものについては、それぞれ改めて契約行為が必要となることに留意が必要である。

イ 留意すべき事項等

(ア) 事業継続が可能な譲渡し先であることの確認 社会福祉法人が関係する事業譲渡等は、事業に関わる利用者へのサービス提

供の継続に資するために行われるものである。 このため、譲渡し先となる法人が当該事業を実施できる主体であることが前

提であり、事前に事業所管行政庁と協議を終えておく必要がある。

(イ) 相手方法人に関する留意点社会福祉法第 27 条の特別の利益供与の禁止の対象となる評議員、理事、監 事、職員などの社会福祉法人の関係者が、事業譲渡等の相手方となる法人の関 係者である場合には、特別の利益供与の禁止規定(社会福祉法第 27 条)や利益 相反取引の制限規定(社会福祉法第 45 条の 16 第4項によって準用される一般 社団法人及び一般財団法人に関する法律第 84 条)等に抵触することのないよう にする必要がある。

(ウ) 資産を譲渡する際の留意点 社会福祉法人は、法人設立時等の寄附者の持分、剰余金の配分はなく、解散

時の残余財産は社会福祉法人その他学校法人、公益財団法人等の社会福祉事業 を行う又は国庫に帰属するとされている。事業の譲渡の際にもこの考え方に留 意する必要がある。

また、社会福祉法人の持つ資産は、法人外流出に当たらないよう、適正な評価 を行った上で価格を検討する必要がある。価格の検討を十分行わず、単に国庫補助金返還を理由として無償譲渡とすることは、法人外流出に該当する可能性があ るので留意する必要がある。

(エ) 資産を譲受ける際の留意点 事業を譲受ける場合、適正な評価に基づく価格をもって行い、不当に高価で譲受することは、法人外流出にあたる可能性があることに留意する必要があ る。

(オ) 租税の取扱
事業譲渡する資産が租税特別措置法第 40 条の規定の適用を受けた寄附財産である場合、有償又は無償に関わらず、原則として非課税承認が取り消され、譲 渡した法人において納税が必要となるので、所轄の税務署において事前相談を 行う必要がある。

(カ) 国庫補助金の取扱 譲渡する資産が国庫補助金を受けて取得した財産であって、これを有償で譲渡する場合、一般的には、譲渡額に総事業費に対する国庫補助額の割合を乗じ て得た額が国庫への納付となるので、補助金関係の行政庁と協議をする必要が あることに留意すべきである。

ウ 事業譲渡等に関し不適切と考えられる想定例を示すが、これ以外であればすべて 適切というものではなく、個別ケース毎の検討や諸制度による規制等の確認が求め られる。

<適切と考えられる実例> 社会福祉法人への事業の譲渡しの際、土地、建物、事業のそれぞれを外部機関である金融機関に評価を依頼し見積額を出してもらった。この見積額を下限として先方と協議を行い決定し た。

<適切と考えられる実例> 株式会社からの事業譲受けにあたり、譲受ける資産の簿価、固定資産評価額、路線価、引き受ける借入返済、退職金引当金等を法人の税理士に分析を依頼した。その結果を法人所轄庁に も提示し、支払価格を決定した。

<不適切と考えられる想定例1> 社会福祉法人Aから他の法人Bに対し、1~3をすべて満たすような事業の譲渡しが行われた場合
1社会福祉法第 27 条の特別の利益供与の禁止の対象となる社会福祉法人Aの関係者が、事業を譲受けた法人Bの関係者であった場合 2当該事業の譲渡し価格に関し、社会福祉法人Aにおける評価の過程が明確でなく、適切な価格なのか判断できない場合 3(イ)から(ニ)までのような特段の事情がない場合

(イ) 社会福祉法人Aにおいて、事業を継続しがたい特段の理由がある。
(ロ) 社会福祉法人Aにおいて、当該事業の収支が赤字で推移しており、将来も改善する

見通しがない。page12image2868004016

(ハ) 当該地域において、事業の譲渡しが可能な他の法人がない。
(ニ) 当該地域において、当該事業のニーズが減少する見通しがある。

page12image2867951312

<不適切と考えられる想定例2> 社会福祉法人Cが他の法人Dから、次の1、2をすべて満たすような事業の譲受けが行われた場合

1社会福祉法第 27 条の特別の利益供与の禁止の対象となる社会福祉法人Cの関係者が、事業を譲渡した法人Dの関係者であった場合 2当該事業の譲受け価格に関し、社会福祉法人Cにおける評価の過程が明確でなく、適切な価格なのか判断できない場合