2040年までの社会福祉法人の試合のルールブックです。
「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」
1 はじめに
社会福祉法人は、戦後の混乱期から今日に至るまで長きにわたり、社会福祉事業の主た る担い手として、我が国の社会福祉を支えている。
近年、地域においては、生産年齢人口の減少をはじめとする本格的な人口減少社会の到 来、福祉ニーズの複雑化、多様化、地域社会の変化が進んでおり、社会福祉法人もこうし た変化に応じた対応が求められている。また、多発する自然災害や 2020(令和 2)年の新 型コロナウイルス感染症の発生時において、いかに福祉サービスを継続させていくかといった課題にも直面しており、平時から法定の避難行動計画の策定や避難訓練の実施に加 え、事業継続計画の策定も含め万全の備えが求められている。
今般、公益性と非営利性の両面を備え、良質な福祉サービスを継続して提供していく使 命を持つ社会福祉法人が、こうした地域社会からのニーズに応え、その役割をさらに発揮 していくことを期待して、社会福祉法人の法人間連携、合併、事業譲渡等(以下「事業展 開」という。)の手続きと留意点等を整理した「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」を策定した。
社会福祉法人の事業展開は、社会福祉法人の自主的な判断のもとに進められるべきものであり、希望する社会福祉法人が事業展開を円滑に取り組めるよう、ガイドラインとしてお示しするので、社会福祉法人経営に携わる方々は今後の事業展開の検討にあたって参考にしていただきたい。
2.社会福祉法人を取り巻く現状と課題
(1) 社会福祉法人の現状 社会福祉法人の現状は次の通りである。
ア 社会福祉法人の数
2018(平成 30)年度福祉行政報告例(以下「福祉行政報告例」という。)によると、社会福祉法人は全国で 20,912 であり、前年度から 74 法人増加している。また、2019(平成 31)年4月1日現在の現況報告書等に基づく社会福祉法人の財務諸表等電子開示システム(以下「電子開示システム」という。)によると、法人種別 は一般法人が 18,395、社会福祉協議会が 1,906、社会福祉事業団が 199、共同募金会が 48、その他が 335 となっている。都道府県所在地別に見ると大阪府が最も多 く(1,198)、次いで福岡県(1,160)、東京都(1,073)となっている。指定都市別では、 大阪市(300)が最も多く、次いで横浜市(267)、京都市(260)と続いており、中核市別では、鹿児島市(121)が最も多く、次いで金沢市(115)、長崎市(109)と続いてい る。
イ 社会福祉法人の規模
電子開示システムによると、2018(平成 30)年度決算におけるサービス活動収益の規模別の法人の割合は、1 億~2 億円(26.7%)が最も多く、次いで、1 億未満 (14.8%)、2~3億円(13.2%)と続いている。平均は約 5 億円であり、10 億円以上 の法人は約 1 割(11.1%)、50 億円以上の法人は 0.6%にとどまっている。
(参考) 分野別の平均サービス活動収益
・高齢 約7.9億
・障害 約5.1億
・児童 約2.6億
・その他 約11.6億
ウ 社会福祉法人の経営状態
電子開示システムによると、2018(平成 30)年度決算におけるサービス活動収益からサービス活動費用を引いた「サービス活動増減差額」をサービス活動収益で除した「サービス活動増減差額率」は、平均値は 2.31%、中央値は 1.66%であり、 「0」未満の法人は全体の 38.4%となっている。
(参考)サービス活動増減差額率別法人数の割合・0%未満 38.4% ・0%以上5%未満 32.6% ・5%以上 10%未満 18.0% ・10%以上 20%未満 9.6% ・20%以上 1.4%
エ 社会福祉法人の事業分野電子開示システムを基に厚生労働省福祉基盤課による集計では、社会福祉法人の事業分野は、高齢分野単独が 21.0%、障害分野単独が 10.0%、児童分野単独が 43.4%、 複数分野が 25.1%、その他単独が 0.5%となっている。2018(平成 30)年度決算における収益規模が 5 億未満の場合は 88.7%の法人が単独分野を実施しているのに対し、20 億以上の場合は、86.4%が複数分野を実施している。収益規模が 5 億未満 の社会福祉法人について児童福祉分野のみを行う法人の割合が多い。
オ 社会福祉法人の合併の状況
福祉行政報告例によると、合併認可件数は 12 件となっており、年間 10~20 件程度で推移している。 なお、令和元年度社会福祉推進事業「社会福祉法人の事業拡大等に関する調査研究事業」(みずほ情報総研株式会社)内で実施された合併、事業譲渡等を行ったことがない社会福祉法人経営者向けアンケートの合併、事業譲渡等の必要性についての設問において「必要性を感じている」、「今後は、必要性が出てくるのではないか と感じている」と回答した経営者は合計で 42.6%となっている。
(2) 社会福祉法人制度の変化 社会福祉法人は、戦後、社会福祉事業が公的責任により実施されることになると、民間の社会福祉事業の自主性の尊重と経営基盤の安定等の要請から、旧民法第 34 条 の公益法人の特別法人として 1951(昭和 26)年に制度化された。
社会福祉法人は、旧社会福祉事業法に基づく規制や監督を受けながら、主として国 からの措置事業を担う公共的な性格を有する法人として機能してきた。以来、長きに わたり、社会福祉法人は、社会福祉事業の主たる担い手として、我が国の社会福祉を 支えてきた。
その後、2000(平成 12)年の介護保険法の施行、同年の社会福祉事業法の改正に よる社会福祉法の成立により、サービスの利用の仕組みを措置から契約に転換し、多様な供給主体を参入させることにより、利用者の選択の幅を広げるとともに、事業者 の効率的な運営を促し、サービスの質の向上と量の拡大を図る政策がとられた。
2006(平成 18)年に公益法人制度改革が行われ、公益財団法人等には、その組織 等について法律で明確に規定されるとともに、透明性の確保についても高いレベルの 情報公開が義務付けられた。こうしたこと等を踏まえ、2016(平成 28)年には社会福祉法人が備える公益性・非営利性に見合う経営組織や財務規律を実現し、国民に対する説明責任を果たすとともに、地域社会に貢献するという社会福祉法人本来の役割 を果たしてくよう法人の在り方を見直す観点から、
・ 経営組織の見直し(評議員、理事、監事、会計監査人に資格、職務、責任、権 限の規定整備、評議員会の必置化、一定規模以上の法人への会計監査人必置化等)
・ 事業運営の透明性の向上(定款、計算書類等の公表義務化等)
・ 財務規律の強化(特別の利益供与の禁止規定整備、役員報酬基準の作成及び公表の義務化、社会福祉充実計画の策定義務化等)
・ 福祉サービスを提供するにあたっての責務(地域における公益的な取組の責務化)
・ 行政の関与(所轄庁による改善勧告の規定整備、社会福祉法人に関するデーターベースの整備、国民への情報提供の実施等) を内容とする社会福祉法の改正(以下「28 年改正法」という。)が行われた。
(3) 2040年を見据えた社会福祉法人の課題
いわゆる団塊ジュニア世代が 65 歳以上となる 2040(令和 22)年を見据えた社会 福祉法人の課題は以下の通りである。
ア 増加が緩やかになる高齢者と減少が加速化する生産年齢人口
我が国の社会の人口動態を見ると、いわゆる団塊の世代が全員 75 歳以上となる 2025(令和7)年に向けて高齢者人口が急速に増加した後、その増加が緩やかになる。また、大都市とその郊外では高齢者が増加する傾向にある一方で、地方では高 齢者が増加せず、減少に転じる地域もみられる。
さらに、担い手となる生産年齢人口の減少が 2025(令和7)年以降加速する。現 在でも福祉人材の有効求人倍率が高止まりしていることに加え、2018(平成 30) 年には労働時間規制の強化や同一労働同一賃金などを内容とする働き方改革関連法が成立し、2019(平成 31)年4月から順次施行されており、働き方改革に適切に対応しつつ、担い手確保を図る必要がある。
イ 福祉ニーズの複雑化、多様化と地域社会の変化
近年、ひきこもりやゴミ屋敷問題、親の介護と子育てを同時に担うダブルケア、 高齢の親と働いていない独身の 50 代の子どもが同居している世帯といった複合的な課題など、個人や世帯が抱える生きづらさやリスクが複雑化、多様化している。 また、血縁、地縁、社縁といった共同体の機能の脆弱化といった社会構造の変化が進んでいる。
こうした中、福祉ニーズの複雑化、多様化、地域社会の変化に対応していくため、 従来の高齢者、障害者、子どもといった種別を超え、横断的、包括的な福祉サービ スの提供が求められている。社会福祉法人に対しては、「地域における公益的な取組」が責務として位置づけられており、福祉分野を超えた他分野との連携として、 農福連携や住宅確保要配慮者への居住支援への取組などが期待されている。
3.社会福祉法人の事業展開と期待される効果
社会福祉法人は、旧民法第 34 条に基づく公益法人から発展した特別法人として、
1 社会福祉事業を行うことを目的とし(公益性)
2 法人設立時等の寄附者の持分はなく、剰余金の配当もなく、解散時の残余財産は社会福祉法人その他学校法人、公益財団法人等の社会福祉事業を行う者又は国庫に帰属し(非営利性)
3 所轄庁による設立認可により設立されるという性格を有している。 社会福祉法人は、こうした性格を活かし、わが国の人口構造の変化や福祉ニーズの複雑化、多様化を見通して、これまで培ったノウハウを生かした福祉サービスの充実を図ると ともに、
・ 様々な社会生活上の困難を抱える者に対して、日常生活の支援を含む福祉サービス の提供
・ 過疎地等他の経営主体の参入が見込まれない地域で福祉サービスの提供 など、他の経営主体で担うことが必ずしも期待できない、制度や市場原理では満たされな いニーズに対して、住民に身近な圏域で福祉分野の専門性を持つ非営利セクターの中核として、福祉サービスを積極的に提供することが期待されている。
社会福祉法人の事業展開は、公益性・非営利性を十分に発揮し、社会福祉法人に寄せら れている期待に応える非営利法人として、経営基盤を強化し良質かつ適切な福祉サービス の提供が実現しうる観点から行われるべきである。
(1) 事業展開の主な手法
社会福祉法人が行う主な事業展開として、以下のような手法が考えられる。このほか、2020(令和2)年6月に公布された社会福祉法等の一部改正法には、社会福祉法人が、それぞれの強みを活かしながら、連携するための新たな方策として「社会福祉連携推進法人制度」が盛り込まれている。
○ 法人間連携
法人間連携とは、それぞれの法人の強みを活かし、地域の課題などに連携して対応することや、人材確保や災害対応などを複数の法人間で協力関係を構築する ことである。連携の範囲や内容など明確な定義はなく、法人間で互いに協力関係を築くこと全般が含まれるものと考えられる。
また、近年では、社会福祉協議会を通じた連携が行われ、地域づくりの一翼を担っている。
○ 合併
社会福祉法人の合併は、社会福祉法に規定されており、社会福祉法人間のみで認められている。28 年改正法で吸収合併、新設合併の規定等が追加された。
・新設合併合併により既設の法人の全てが解散し、新たに法人を新設すること。
・吸収合併合併により 1 つの法人のみ存続し、他の法人を吸収(解散)すること。合併後存続する法人が、消滅した法人の一切の権利義務を承継する。
○ 事業譲渡等
事業譲渡等とは、事業の譲渡と事業の譲受けを総称したものである。通常、特定の事業を継続していくため、当該事業に関する組織的な財産を他の法人に譲渡・譲受けすることであり、土地・建物など単なる物質的な財産だけではなく、 事業に必要な有形的・無形的な財産のすべての譲渡・譲受けを指している。
(2) 社会福祉法人の事業展開により期待される効果
ア 事業展開全体で期待される効果
(ア) 新たな福祉サービスや複雑化、多様化に対応した取組の展開 個々の法人では資源の不足等により新たに取り組むことが難しい場合であっても、複数の法人が連携、協力し資源を補いあうことで取組が可能となる。
(例)
・様々な地域生活課題に対する総合相談支援体制の強化
・新たな支援・サービスの創出
・緊急・窮迫した状況への迅速な現物給付の実施
・全世代型の居場所づくり、見守りの展開
(イ) 一法人では対応が難しい課題への対応 個々の法人のみでは対応しにくい課題への取組などが期待される。
(例) ・外国人材の確保など人材確保の促進 ・研修の共同実施 ・災害時への備え、体制の構築
イ 法人間連携で期待される効果
法人間連携であれば、合併、事業譲渡等の手続きと比較し容易に取り組むことができ、意思決定から短期間で柔軟に実行に移しやすい。
ウ 合併で期待される効果
(ア) 法人が一体となることによる経営基盤の強化、事業効率化
・ 法人が一体となり、本部機能や財務基盤が強化されることにより、事業の安 定性と継続性が高まり、建物の修繕や設備の増強など、サービスの質の向上に向けて積極的に設備投資を行うことが可能となることが考えられる。
・ スケールメリットを活かすことによって、資材調達などのコストを削減することが可能となることなども考えられる。
(イ) サービスの質の向上、組織活性化
・ 相手方の法人の人材、ノウハウ、設備等資源を活用することにより、既存の資源の補完や高度な活用が促され、サービスの質の向上などが期待される。
これまでにない新たな種別の施設を取り入れた場合には、提供するサービスの幅が広がることが期待される。
・ 互いの法人が有機的に結合し、職員間の意識が刺激されるなど新たな法人風 土を醸成することが期待される。
(ウ) 人材育成
・ 新たな領域の知識・技能・経験を持った職員を確保することができ、職員間の人事交流が促進されれば、各職員のスキル拡大・向上を図ることができることが期待される。
・ 規模拡大によって教育への投資が促され、外部講師の招へいや外部研修への参加機会の確保など、充実した教育を受けることが期待される。
エ 事業譲渡等事業譲渡等の効果として、合併において挙げられている効果に加え、以下の項目 が考えられる。
(ア) 事業継続が困難な社会福祉事業の継続事業継続が困難になっている社会福祉事業について、事業譲渡等により、事業継続の可能性が広がることが期待される。
(イ) 事業拡大、拡充の負担軽減 他法人から事業を譲受けることにより、即戦力の資源を活用することができ、新設、増設する場合よりも、迅速な事業展開や、事業化までの負担の軽 減、事業の拡大、拡充が期待される。