多元的社会
H31年3月、地域包括ケア研究会(座長:田中滋氏)から「2040年:多元的社会における地域包括ケアシステム ー「参加」と「協働」で作る包摂的な社会ー」が報告された。報告書では、2040年は多元的な社会とし、これからの20年、社会が準備しなければならない取り組みを中長期的な視点で提案した。
趣旨
- 平均的な高齢者では語れない多様性と格差の時代と予測し、年齢の持つ意味も一元的ではない。2040年は、家族介護を前提としない。
- これからの地域包括ケアシステムの構築においては、現状の延長線上に 2040年の社会をイメージするのではなく、2040年の多元的な社会を包摂できる地域の仕組みをそれぞれの地域でイメージし、その実現のため、残された時間に実施すべき取組をそれぞれの地域で明確にしていくことが必要とした。
- 介護サービスのデザインを出来高払いによる単品サービスから、「包括報酬型」 在宅サービスに転換していく流れをさらに推し進めるべきである、とした。
- 小規模多機能の重要性を強調している。
内容抜粋
- それぞれ異なる地域生活上の課題や問題を抱えた人々が、それでも一つの地域の中で排除され る(社会的排除)ことなく多様な人々を包み込んでいく過程、それが、2040 年の多元的な社 会に向かっていく際の基本的なアプローチである。これを「社会的包摂」と呼ぶ。
- 「参加と協働」とは、それぞれの地域における実情を踏まえ、そこに住む利用者やその 家族などとのやり取りの中で、その地域の実情にあったサービスや、その提供体制をデザイン したり、調整したりすること。
- 地域での生活を継続するためには、「生活全体を支える地域の仕組み」として介護や医療だけで なく、住まい、生活支援等が、社会保険制度に限定されず、様々な資源の組み合わせで一体的 に提供される必要がある。これまで、介護保険制度では、そうした一体的なケアを実現するた めの中核的・基盤的サービスとして「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」や「小規模多機能 型居宅介護」「看護小規模多機能型居宅介護」を開発してきた(ここでは、これらを「包括報酬 型」在宅サービスと呼ぶ)。
- 2040 年に向けては、これら「包括報酬型」在宅サービスの機能と役割をさらに拡充するとともに、これらのサービスを活用しながら、どのように利用者が地域とのつながりを継続させて いくかといった視点が重要になる。
- 例えば、小規模多機能型居宅介護は、通いの場を中心にデザインされてきたが、専門職サービスは訪問でサービス提供しつつ、地域の中に要介護者が通える住民主体の「通いの場」や「居場所」にも参加するといった形もすでに実現している。
- 小規模多機能型居宅介護の最大の特徴の一つは、地域とのつながりの中で在宅生活を継続できることであろう。小規模多機能型居宅介護では、利用者が元気だったころの近所との付き合いや生活のリズム、 あるいは居住空間も含め、利用者はありのままの情報を、いわば「地域や在宅から引き連れて サービス事業者にやってくる」と表現してもよい。つまり小規模多機能型居宅介護は、地域との継続性を保ちやすい特徴があるといえるだろう。
- 小規模多機能型居宅介護が、専門職サービスと地域住民をつなぐ役割を果たせるのであれば、 事業所がその地域の支援拠点として機能しているといえる。特に小規模多機能型居宅介護は、 地域包括支援センターよりも小地域に計画的に整備されている場合もあり、地域づくりの拠点として機能するのであれば、現在の地域包括支援センターには難しいより小地域の地域社会と連続性を持つこともできるだろう。
- 本報告書の冒頭でも触れた通り、2040年は85歳以上の高齢者が 1,000 万人以上生活している社会であり、介護あるいは常時の生活支援を必要としていなくても、生活の中の困りごとを抱える人が地域の中に数多くいる社会である。したがって、地域における多様な生活支援ニー ズに応える体制の構築は、介護保険の範囲を越えた地域全体の課題と理解すべきであろう。
- 多様化する地域の状況に加え、人口減少が進行していく中、行政もまた地域の守り方を変える必要がある。すでに全国のすべての市町村が、統一的な取組手法で、地域住民の生活を守るこ とは非現実的になっている。例えば、現在、地域包括支援センターには、三職種の配置が原則とされているが、地域によっては、介護サービス事業所の職員確保も困難な状況にあり、三職 種を配置することが現実的ではない場合も少なくない。また専門職の配置を優先すれば、地域 の介護サービス提供者を失う可能性もある。むしろ、三職種にこだわらず、既存の介護サービ ス事業所が、地域包括支援センターの機能の一部を代替するといった柔軟な運用も地域によって必要だろう。
- このような問題は、地域包括ケアシステムの構築の場面に限らず、地方行政の傾向として、様々な場面で表出するだろう。総務省「自治体戦略 2040 構想研究会」の第一次報告も、今後の人口減少社会において、自治体は、行政がすべての役割や機能を自前で担うといった「行政のフルセット主義」を排し、地域の多様な資源が協力し合う場を設定する「プラットフォーム・ ビルダー」になることを求めている。
- 2040 年に向けては、地域包括支援センターの基本的な機能である総合相談の観点からは、全世代・全対象者対応型の相談窓口としての機能を持つ地域の拠点となることが前提になる。すでに触れたように、家族の抱える課題の複合化に加え、単身世帯の増加など、個人の抱える課題の複雑化は避けられず、また地域資源の組み合わせも、これまで以上に多様になることが想 定される。
- 2040年に向けて、地域包括支援センターの地域マネジメントにおける役割を明確化するとともに、その主たる担い手として体制構築を進めつつ、地域によっては、小規模多機能型居宅介 護などの地域密着型サービス事業所に地域包括支援センターのブランチ機能を持たせる方法や、 中学校区よりも小さい圏域にコーディネーション機能を持つ職員やコーディネーターを配置するなど、多様の方法で地域マネジメントを実現するための改善を進める必要があるだろう。
- 本提言では、2040年の日本社会が多元的な社会に転換していくことを軸に、地域包括ケアシステムのあるべき姿について提案してきた。これまでの医療・介護の仕組みは、全国共通のサ ービスと仕組みを基盤として、比較的標準化されたケアを提供する仕組みをベースに運営され てきた。今後は、医療・介護・生活支援等のニーズの増大と人口減少の中で、そして何よりも 社会の多元化の中で、いかにして個人また地域のそれぞれの実情にあったケアとサービスを各地域でデザインしていくかが大きな課題となる。
- 国においては、介護サービスのデザインを出来高払いによる単品サービスから、「包括報酬型」 在宅サービスに転換していく流れをさらに推し進めるべきである。またサービスの提供現場に おいては、個人の尊厳と個別性を尊重した生活を支援するため、決められたサービスを決めら れた時間に一方通行にサービス提供するのではなく、生活全体を利用者と共に支えるケアに転 換していくことが、これまで以上に重要になるだろう。このことは、地域住民側からみれば、 専門職や行政にお任せの地域の仕組みづくりではなく、住民や利用者も参加・協働するまちづくりとして地域包括ケアシステムを進めていくことを意味している。
- そして、これからの地域包括ケアシステムの構築においては、現状の延長線上に 2040 年の社会をイメージするのではなく、2040年の多元的な社会を包摂できる地域の仕組みをまずそれぞれの地域でイメージし、その実現のため、残された時間に実施すべき取組をそれぞれの地域で明確にしていくことが何より大切であろう。