やっぱ、支払い側は厳しいですね。

令和6年度診療報酬改定に関する1号側(支払側)の意見

新型コロナウイルス感染症の拡大により、経済の停滞や、医療現場の混乱など未曽有の危機を経験したが、医療従事者の献身的な対応をはじめ国民全体の弛まぬ努力により、 新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類に引き下げられて以降、社会経済活動が活発化し、デフレ脱却に向けた兆しが見えはじめるなど、新たな道を歩みだした。

そうしたなか、我が国の医療費は、令和2年度に一時的な落ち込みがあったものの、 一貫して増加基調にあり、令和4年度は過去最高の 46 兆円規模にまで拡大した。さらに、 足元ではコロナ禍前をしのぐ大幅な伸びを示し、予断を許さない状況にある。今後も生 産年齢人口が減少するなかで、団塊世代の後期高齢者への移行が進むなど高齢化に伴い医療費はますます増加する見込みである。

また、令和4年度診療報酬改定においては、リフィル処方箋の仕組みが導入されたが、 厚生労働省が中央社会保険医療協議会に提出した分析結果に基づけば、令和4年度政府予算編成に関する関係大臣折衝で合意された医療費▲0.10%の適正化効果(再診の効率化)は明らかに未達である。

第 24 回医療経済実態調査の結果、令和4年度における一般病院の経営状況は、総じて令和3年度に比べて収益の増加を費用の増加が上回り、赤字が拡大したものの、新型コ ロナウイルス感染症関連の補助金を含めると、損益差額が全体で 1.4%の黒字となった。 一般診療所の場合は費用の増加を収益の増加が上回ったために黒字が拡大し、医療法人では、新型コロナウイルス関連の補助金を含めた損益差額が 9.7%の黒字となった。歯科診療所と保険薬局は、引き続き黒字基調で安定的に推移した。また、医療法人における看護職員や看護補助職員の平均給料年額は、一般病院で1%台半ば、一般診療所で2% 程度の伸びとなった。一方、資産・負債の状況に目を向けると一般病院、一般診療所、歯科診療所、保険薬局のいずれも、長期借入金をはじめとする固定負債が減少して資本が増加し、一般診療所を中心に医療機関・薬局の経営は堅調と言える。

昨今の物価の高騰等は国民の生活を圧迫し、さらに、これまで長期にわたり、賃金・物価の伸びを医療費の伸びが上回る構造が続いてきたことで、国民・事業主の保険料負担 と患者自己負担は着実に増加し、医療保険財政は限界に近い状況にある。医療保険制度の持続可能性を確保するため、医療の質を担保しつつ、効率化や適正化の取組みが極めて重要である。そのため、医療提供体制については、令和 7 年に達成すべき地域医療構想に基づく病床再編の推進、かかりつけ医機能に関する制度整備、医療DXの推進等を踏まえ、医療機能の分化・強化と連携を加速させることが必要となる。あわせて、医療・ 介護・障害福祉等サービスの同時報酬改定を通じて、各制度において各施設・各職種それぞれが機能を強化したうえで、ICT等を活用して円滑な連携を図らなければ、生産年齢人口の減少によるサービスの担い手が不足するなかで、高齢化により増大する需要をまかなうことは到底できない。

令和6年度診療報酬改定においては、賃金、物価の動向を考慮しつつも、高止まりする医療費の自然増により医療保険制度の持続可能性に懸念があること、限界にある国民負担の状況、診療所と病院の経営状況の違い、職種別の給与水準の格差などを総合的に勘案する必要がある。したがって、患者の負担増や保険料の上昇に直結する安易な診療報酬の引き上げを行う環境にはない。一方で、令和6年4月からの働き方改革を踏まえ、救急も含め24 時間対応可能な地域医療体制の確保に向けて、多様な医療人材の連携を促進するとともに、看護職員等の医療従事者の処遇改善は重要事項である。まずは診療報酬と補助金・ 交付金との役割分担の整理・効果検証を行い、その結果を踏まえた大胆な配分の見直しにより実現を図るなど、真に有効でメリハリの効いた診療報酬改定が不可欠である。また、 薬価・材料価格改定については、革新的新薬等のイノベーションへの十分な配慮、後発医 薬品等の安定供給の確保を着実に進めるとともに、市場実勢価格の低下に伴う引下げ分を国民に還元すべきである。