「俳優、歌手の杉良太郎さん(72)がベトナムで支援活動を始めて今年で28年。孤児を里子にし、今年9月にはその数176人となる予定だ。日本語学校の運営、孤児の養護施設・盲学校への寄付などベトナムに投じた私財は分かっているだけで17億円に上る。『売名』『偽善』と陰口をたたく人もいるが、杉さんは『見返りなどいらない。受けるべき愛情を受けられない子供たちを助けたいだけだ』と話す。」
「杉さんがベトナムに初めて来たのは1980年代後半。孤児の養護施設を訪れたとき、その食事を見て衝撃を受けた。食べていたのは、わずかなご飯に草を混ぜたようなおかゆ。食べ物とは思えないひどいにおいだった。デビュー前の15歳のときに慰問で訪れた日本の刑務所と同じにおいだった。食事が悪いせいか、みんな背が低い。」
「子供たちが土産の菓子に大喜びするなか、一人だけ寂しそうにしている少女がいた。通訳を介して話しかけると、『お菓子なんかいらない。お父さんとお母さんがほしいの』と言った。杉さんは建物の外に出て泣いた。このとき、里親になろうと決意した。」
「『ベトナムに来るたびに増えていった』(杉さん)という里子は現時点で101人。ある児童養護施設の子供全員をまとめて里子にする予定なので、9月には176人になる。『里子とそうでない子の間で差別があってはいけない』(同)との配慮からだ。」
「年に数回しか会わないが、みんな杉さんのことを本当のお父さんのように慕っている。きっかけとなった最初の里子、グエン・タン・ガーさん(40)は結婚し、2人の子供が生まれた。たまに会うと、妻で演歌歌手の伍代夏子さん(55)に『お母さん』と言って抱きついて甘えるという。」
「最初の寄付は1989年、500ドルだった。その後、訪越のたびに寄付を続け、判明している2000年までだけで投じた私財は17億円に。そこまで支援する理由を尋ねると、杉さんは『私も分からない。ただ、『自分が孤児だったら、全盲だったら』ということは常に考える。つらい境遇にある子供たちにも生まれてきた喜びを与えてあげたい』と答えた。」
「『売名だ、偽善だ、と批判する人はたくさんいる。首相経験のある日本の政治家に『芸能人はお金があっていいですね』と冷ややかに言われたこともあった。でもいいんです。評価もいらない。見返りもいらない。そんなものを求めるようなら社会貢献なんかやらないほうがいい』(杉さん)」