報酬改定を前に、2023年11月1日 財務省から「建議」が発出されています。

介護費用の総額は、高齢化等の要因により毎年増加。こうした中、介護報酬改定においては、必要な介護サービスを提供しつつ、国民負担を軽減する観点から、報酬の合理化・適正化等を進めていく必要。

担い手確保等の課題に対応しつつ、給付の適正化や保険制度の持続性確保のための改革を実施する。

職場環境の改善・生産性の向上に向けた総合的な対策を講じ、高齢化等に伴う事業者の収益増等が処遇改善につながる構造を構築する。あわせて、中長期的に増大する介護需要に応えられる体制を構築する。

 全体としてメリハリをつけた改定とすることにより、現役世代の保険料負担増等を最大限抑制する。

労働力の確保が課題となる中、今後も増大し続ける介護ニーズに対応していくためには、テクノロジーの導入・活用促進や人員配置基準の柔軟化を強力に進めていくことが不可欠。

こうした施策を他の施策とあわせて実施し、生産性を高めることにより、介護サービスの質の向上や介護従事者の負担軽減を図り、増大する需要(事業者にとって収入増)を現場の従事者の賃上げにつなげる好循環を実現することが必要。

人手不足が先行きも続くとの見通しの下、ICT機器の活用や、経営の協働化・大規模化を推進することで、限られた介護人材の リソースを有効に活用し、生産性を向上させることは喫緊の課題。

他の産業ではデジタル技術を活用した省力化・効率化投資を進める動きが見られるが、介護業界においては相対的にソフトウェア投 資額の伸びが小さい。また、介護ロボットの導入状況を見ても、事業所全体で幅広く普及してはいない状況。

介護業界の生産性向上の観点から、経営の協働化・大規模化を推進することも重要。

社会福祉法人の経営基盤強化の新たな選択 肢として、令和4年4月に「社会福祉連携推進法人」制度が導入され、19法人が設立されているが、制度の活用を一層促進する必要。

限られた介護人材のリソースを有効に活用し、生産性を上げていくため、経営の協働化・大規模化は重要な取組。担い手の確保協働化・大規模化により、人材育成を通じた離職率の低下、一括仕入れによるコスト削減、利用者のニーズへの対応強化といった成果が得ら れている好事例も出ている。また、社会福祉連携推進法人制度の活用の他にも、協働化による業務改善の取組例も生まれている。

給与面でも、特養では規模が大きくなるほど職員1人当たりの給与が大きくなる傾向にある。

今般の経済対策において中期的な担い手確保の観点も含め、職場環境の改善等につながる介護事業者の協働化・大規模化を支援。

介護事業者が民間の人材紹介会社を活用して人材を採用する場合、一部の事業者は高額の経費(手数料)を支払っている状況。また、人材紹介会社経由の場合、離職率が高いとする調査もあり、必ずしも安定的な職員の確保に繋がっているとは言い難い。

介護職員の給与は公費(税金)と保険料を財源としており、本来は職員の処遇改善に充てられるべきもの。介護事業者向けの人材紹介会社については、今後、本人への「就職お祝い金」に関する集中的指導監督の実施等が行われる予定だが、更なる取組の強化が求められる。

介護分野は医療・保育と比べ、厚労省が認定する適正紹介事業者を通じた人材紹介の市場シェア率が低く、更なる対応が必要。

昨年度の経営概況調査による令和3年度の収支差率は3.0%と中小企業全体(3.3%)をやや下回る水準。

しかし、本調査の収支差は、特別費用である「事業所から本部への繰入」は反映(控除)されている一方で、特別収益が反映(合計)されていない。このため、特別費用を除いた収支差率で見ると、4.7%と中小企業全体の水準を上回る。

同様の特別費用・特別収益を除いた上での分析は、サンプル数がより豊富な福祉医療機構が公表する「経営分析参考指標」でも用いられており、こうした事業者のグループ内の資金移動を除外したデータを基にサービス類型ごとの収支差率で見ると、中小企業全体の水準を上回るサービスが多い。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)等においては、同一の建物に居住する高齢者に対して特定の事業者が集中的にサービスを提供して いる場合に、画一的なケアプランや過剰なサービス等、いわゆる「囲い込み」の問題が指摘されてきた。

前回の報酬改定時に、問題事例についてはケアプランを届け出る仕組みを導入したが、そもそも自治体による点検が十分に行われておらず、 サービスの見直しにつながっていない状況。その背景の一つとして、サ高住の運営者との関係で見直しが進まないとの課題が指摘されている。

ケアプランを届け出る仕組みによる効果が限定的であったことを踏まえ、より実効的になるよう見直すとともに、報酬の適正化による対応を図るべき。具体的には、訪問介護等について、利用者が同一建物に集中している場合、一層の減算を行うべき。また、ケアマネジメントサービスの偏りに対する減算も強化すべき。

近年、慢性期・終末期の利用者に特化した施設(有料老人ホームやサ高住等)について、併設の訪問看護事業所からのサービス提供の在 り方が課題となっている。

特に、医療保険からの訪問看護の提供は、介護保険のように区分支給限度基準額の概念がなく、ケアプランの作成も努力義務にとどまるた め、歯止めが効いていない。実際、利用者の1月当たりの請求額を見ると、全体の1%強が60万円以上、最大値が116万円と高額。

介護報酬については、これまでも、「地域包括ケアシステムの推進」、「自立支援・重度化防止の取組の推進」、「介護人材の確保・介護現場の革新」、「制度の安定性・持続可能性の確保」といった観点から、事業者を適切に評価するために報酬改定の中で加算が設けられてきた。 

このような中で、制度創設当初から加算の種類が大きく増加し、体系が複雑化。

前回の報酬改定でも加算項目の整理が行われたが、依然として算定率がゼロまたは低い加算項目が多数存在。

介護保険第1号保険料は、保険者ごとに介護サービスの利用見込み等を踏まえて基準額を設定した上で、所得段階別の保険料を決定。基本的に、基準額を上回る分の合計額と、基準額を下回る分の合計額を均衡させることとなっている。

これに対し、低所得者の保険料負担の軽減を強化するため、2015年度より、公費による更なる負担軽減を実施。

今後、高齢化の進展による第1号被保険者数の増加や、給付費の増加に伴う保険料の上昇が見込まれる中で、低所得者の負担軽減に要する公費の過度な増加を防ぐため、負担能力に応じた負担の考え方に沿って、高所得の被保険者の負担による再分配を強化すべき。

介護保険制度においては、制度創設時、利用者負担割合を一律1割としていたが、保険料の上昇を可能な限り抑えながら、現役 世代に過度な負担を求めず、高齢者世代内において負担の公平化を図るため、「一定以上所得のある方」(第1号被保険者の上 位20%相当)について負担割合を2割、さらに、「現役並みの所得」を有する方の負担割合を3割に引き上げてきた。

後期高齢者医療制度における2割負担の導入(所得上位30%)を受けて、介護保険の利用者負担(2割負担)(現行:所得上位20%)の拡大について、ただちに結論を出す必要。

さらに、利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割)等の判断基準を見直すことについても検討していくべき。

制度創設時から、「施設介護については、居宅介護とのバランスや高齢者の自立が図られてきている状況から見て、食費等日常生活 費は、利用者本人の負担とすることが考えられる」とされていた(「高齢者介護保険制度の創設について」(1996))。

このため、2005年度に、食費と個室の居住費(室料+光熱水費)を介護保険給付の対象外とする見直しを実施(多床室は食 費と光熱水費のみ給付対象外)。2015年度に、介護老人福祉施設(特養老人ホーム)の多床室の室料負担を基本サービス費 から除く見直しを実施。

しかしながら、介護老人保健施設・介護医療院・介護療養病床の多床室については、室料相当分が介護保険給付の基本サービ ス費に含まれたままとなっている。

介護医療院は、介護老人福祉施設(特養老人ホーム)と同様、家庭への復帰は限定的であり、利用者の「生活の場」となっている。

介護老人保健施設は、施設の目的が「居宅における生活への復帰を目指すもの」とされ、少なくとも3か月毎に退所の可否を判断することとされ ているが、一般的な医療機関でも長期入院の基準が180日となっている中、介護老人保健施設の平均在所日数は300日を超えている状況。

さらに、入所当初の利用目的が「他施設への入所待機」や「看取り・ターミナル期への対応」という利用者が3割となっており、長期入所者の 退所困難理由でも「特養の入所待ちをしている」が38%、「家族の希望」が25%となっている。

こうした状況を踏まえ、居宅と施設の公平性を確保し、どの施設であっても公平な居住費(室料+光熱水費)を求めていく観点から、給付対象となっている室料相当額について、次期計画期間から、基本サービス費等から除外する見直しを行うべきである。